月夜たちは、凛と共に妖狼の村に入っていた。そして、問題の祠にいってみるとみるも
無残に木造の小さな祠は暴かれ滅茶苦茶になっていた。
「残滓が残っているな」
「どうみても白空だろ」
「そう言ってもな、白空と立ち会って生きて帰れた者はあまりないんだ。お前たちの未知
なる能力だと考えられても仕方ない。狐の神気に似たものだからな」
 禍津霊に汚されたゆえに、霊力や神気に異常が出てて当然だなと凛は頷き、同時に疑わ
れるのも無理ないと頷いた。その言葉に少なからずむっとしたが溜め息をついてそれをご
まかしてあたりを探った。
「ここ以外に、こういう風になっているところはないんですか?」
「いや、ない。他の村は、そこの娘さんの天狐の里と土蜘蛛の里を除きほぼこの状態だと
聞いた」
「天狐はな、白空といえども同属の元に行けば殺されかねないし、蜘蛛のところじゃいけ
ないな」
 地中奥深くの隠れ里だ。常世とも言われるような場所でいける人、妖はめったやらにい
ない。
「神殺しをしてまであいつは何をしようってんだ?」
 その疑問はもっともだ。しかも、一箇所ではなく何箇所もだ。祠に奉納されている水晶
などの玉にも手をつけずに粉々に壊したというのだ。
「玉壊しか。どうだと思う?」
「さあ。てか、妖が決起するって、本当の話なのか?」
 月夜が首を傾げると、凛は肩をすくめた。その話はずいぶんと前に協議されていたなと
記憶の引き出しを無理やりこじ開けて溜め息をついた。
「少なくても妖狼はしない。他のところはすると言うところはするといっていた。狸など、
化けるのにしか能のない連中はそんなことしても意味がないと言っていたがな」
「へえ。てことは、比較的戦闘力の強いものが行くのか」
 来るではなく行く。その言葉に取り立てて意識はしていなかったのだが、つまりはそう
いうことだ。
「術者の方は、多分、俺たちみたいな操れる獣みたいなの持っていれば先陣に立つと思う
んだがな」
「まあ、そうだな。お前、宗家になって止められないか?」
「可能性的にはできる。継承式しなくても俺は直系の一族だし、宗家が持っている紋さえ
手に入れられればどうにかなるが」
「あのお屋敷には?」
「爺がいると思うからな。狐を連れて行くのは不安だ」
「あっそうですか」
 さらりと口に出して月夜は肩をすくめ夕香はむっと唇を尖がらせた。
「けんかはよせ。どっちにせよ、可能性があるならば、宗家になってもらったほうがいい
が、な」
「何だよ、その間」
「いや、通報されたらちょいと困るなって。ここの里にさえ入っていれば、術者からは逃
れられるが、あの屋敷近くに里も何もないじゃん。天狐の里も犬神の全速力でも結構な時
間かかるだろう」
「大丈夫だよ、どうせまた逃げられる。意識失ったふりすれば、別に」
 簡単に言った月夜に凛は呆れたように深く溜め息を吐いた。夕香がそれを見て首をかし
げ妖狼の長老は凛を見て肩をすくめている。
「お前たちには行っていなかったが結構な賞金、首にかけられてるぞ」
「もう殺し許可ってこと?」
「ああ。そうだな、二千万とかかけられている。一人につきだ。月夜のほうは三千万だの
何千万単位のものだ」
「何でその違い」
「屋敷で暴れたせいなのか?」
 月夜が聞くと凛は首を横に振った。元から違いがあって時間を追うごとに引き上げられ
たというのだ。本来ならば殺すのが困難なほうに高い賞金を上げるのだが、普通の人であ
る月夜と半人半神である夕香とでどちらが殺しにくいかといわれれば間違いなく夕香のほ
うだろう。そこからして、何か一枚かんでいると感じたそうだ。
「破格の値段だからな。しかも、あたしたちの対策なのか、殺した場合はきちんと首をも
ってこいって言うんだ。異界にいける人間は少ない。だが、結構な数がこっちに来ている
。だから、お前たちにはここに残ってもらう。都軌の紋はなんとなくわかるから、印籠を
持ってくればいいのか?」
「水戸黄門じゃあるまいし。懐剣か、手鏡でいい。少し、特殊な構造をしているんだ」
「ああ、あれか。んじゃ、取りに行ってくる」
 頷いて凛を見送った。暴かれた祠に手を合わせその玉に触れた月夜は溜め息をついた。
「何か見えるのか?」
 長老が息を詰めて聞いてきた。月夜は首を振った。もうここには神がいない。もう一度
呼ぶしかないみたいだと口にして目を伏せた。
 その言葉を聴いて夕香はそっと唇をかみ締めた。


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